景文:
本名松村景文 安政八年生まれ、天保十四年死去(1779−1843)。円山四条派の事実上の主宰者である、景文は呉春の異母弟で号を華渓。絵は義兄の呉春から学ぶ。円山応挙から写生を基本としたスタイルを引き継ぎ、それに装飾性を加えていく花鳥風月を得意としていた。京都の裕福な町衆の間で床映えの良い画風として評判となる。文化十四年(1817年)の呉春七回忌に京都大雲院にて大々的な「呉春追善遺作展」を催し、呉春亡き後の同門の中心的存在として四条派の繁栄に尽くした。応挙や呉春のように、有名ではないが、景文の近代日本画への貢献は、多大だった。天保14年4月26日(1843年)に歿し、京都北山金福寺に呉春のそばに葬られた。
弟子・門下生に 松村王文(常清、景文長男)、横山清暉、、西山芳園、磯野華堂、富田光影、森義章、八木奇峰、国文文友、菅其翠、吉田公均、松川龍椿、長谷川玉峰、八木奇峰、上田公長、須賀南渓らがいた。
Keibun: Matsumura Keibun was born at Kyoto at 1779. He learned painting from Goshun as a half-bother and also learned realism painting skill from Ohkyo and tried to add decorative style as traditional themes of natural beauty in Japanese aesthetics (Kacho-Fugetsu) on Ohkyo-style. Finally He led Maruyama-Shijo painting school and his painting style became mainstream in Kyoto at late Edo period because of fitting to the interior of rich people in Kyoto/Japan. He had many apprentices and after his death, his students influenced to Japanese painting style until modern period in Kyoto and Japan. Therefore his contribution to Japanese painting was invaluable, although he is not very famous vs. Ohkyo & Goshun in Japan. He passed away at 1843 and buried at Kinpuku temple at Kyoto Kitayama.
景文と私
私が景文と出会ったのは、お茶を始める前であった。日本画、それも伏見桃山から江戸時代の絵師たちの多彩な技法やモチーフや美的感覚に魅了されて、わずかな小遣い中から買えるものをと求めた中で、シンプルで洒脱で京都らしい画風に惹かれて、掛け軸屋に名前を問うと「景文」との返事があり、苗字も同じ松村という事で親近感を持ったのが15年ほど前。円山四条派の中で、まだ私のようなサラリーマンでも買える値段で、日常生活に彩りを与えてくれるので、機会があれば京都新門前、古門前あたりや、大規模なアンティークフェア、東寺や北野天満宮の露天市で、品が良く季節を飾ってくれるモチーフを探し求めた。そのときによく掛け軸屋、古道具屋から言われたのは、「景文、うーん、あんまり人気あれへんなあ」、とういう返事が大方だった。人気がないイコール値段も比例してという事で、そうか、だから江戸時代の日本画の中で私のような者でも買えるのかと、少しガッカリした記憶がある。もちろん、円山応挙や蘆雪、若冲、蕪村など同時代の巨匠たちとは、人気や値段の点だけでもランクが大幅に違うが、彼のいくつかの作品は、祇園祭の長刀鉾の天井画に使われたり、メトロポリタン美術館に収蔵されたりしており、今だに京都の町衆の中では知る人は知る画家だと知った。ただ、いくつか買い求めて気が付いた点だが、それぞれのクオリティーが均一ではなく、良いものとそうでないものの差が激しいと感じた。だから画商たちは、応挙のようにブランド化出来ない、絵のクオリティーやテイストのバラツキが多く、贋作も多い景文を真贋付けづらく価格が付けづらいものとして、一部の四条派ファンのためのマニアックな絵として取り扱っていた。確かにいくつかの円山四条派や京都画壇の展覧会図録での景文への評価も、景文の異母兄である呉春より、低くランクづけされており、「床写りの良い軽い余白の多い画風」「形式にとらわれた限定的で無難な作風」とあまり芳しくなく、それは彼のいくつかの作品に関して認めざる得ない。ただ、大正や昭和初期の旧家の売り立て図録には、彼の作品は応挙や、蘆雪たちと同列に扱われ、かなりの価格で取引されていたことが分かる。よって、真贋は売り立て図録に掲載されているかどうかで、判断されることが多く、その当時は新興の裕福な商家や数寄者たちによって、景文の絵は新たなステイタスとして、床の間に飾られたり、お茶席で待合に使われたりしたのではないかと考察する。戦後は、ギッターやプライスなどのアメリカ人コレクターたちの若冲や蘆雪、蕭白らへの新しい視点による日本画への再評価が主流となり、相対的に景文の評価は、古臭い型にはまった個性のない花鳥風月の日本画家との認識で、下がる一方となった。よって私のようなものが手に入れやすくなったのは皮肉なことだ。ただ、京都のお茶の世界では、今だに景文や彼の弟子、清暉などの四条派は定番らしく、京都の茶道具屋では、それなりの金額で売られているのを垣間見ることができる。
今回の私の考察、視点は、今までの美術評論家の定めた戦後以降の江戸時代の日本画の評価を、景文を含めて再議論するつもりはない。すでに景文の日本画としての評価や市場価値はほぼ決まっており、一人のコレクターとして再評価してもらおうとは思っていない。ただ、現代において彼の画風がお茶席等でいかに季節や亭主のおもてなしの気持ちをゲストに伝えるのに、比較的手に入れやすい最適なビジュアル媒体であるかを、彼の様々な作品、作風で伝えたい一心でこのエッセイをまとめた。これは、私の裏千家の茶道の先生が同じく景文ファンだったことも、ある種寄与している。掛け軸屋から、「あんた変わってますなぁ」と言われていたのと対極に、私から実は景文ファンですとお茶の先生に申し上げたら、「そうそう、景文、可愛い、しゃれているなぁ」とニッコリおっしゃったのが昨日のように思い出されて、そのマニアックな気持ちを共有できたらとの思いもある。
また、お茶席に限らず、床の間が無くとも彼の掛け軸は、どのスペースにも簡単に飾れて、季節を楽しめることができるアートでもある。あわせて収納も額付き絵画のように嵩張らず、丸めてクローゼットに保管しやすい。景文はお値段も手の届きやすい江戸時代の日本画なので、もし機会があればぜひ手にとって実物を見て、江戸時代の京都の季節のはんなりした風を感じてもらいたい。それが博物館、美術館に収蔵されている、個性が強い巨匠たちとの違いだ。つまり、憧れの高級ブランドのアーティストではなく、身近な江戸時代の京絵師として、日常生活にて季節の彩りをお手軽に楽しんでほしい。
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